なぜ電流帰還アンプにこだわるのか?

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説明

山本式電流帰還アンプ改造のナゾ

に書いた通り、webmasterはアナログアンプを電流帰還で試作しています。

なぜ電流帰還にこだわるのかというと、『スピーカーから出てくる音量は、電圧にも電力にも比例せず、流した電流に比例する』と考えているからです。

ざっくりオーディオメインアンプ(パワーアンプ)の帰還方式についておさらい

トランジスタを使用したアナログパワーアンプの帰還方式は、無帰還で始まって電圧帰還になりました。。

2018年現在でも、アナログアンプは電圧帰還が主流です。

電流帰還と電力帰還を提唱する人もいますが、技術のメインストリームにはなっていません。

電力帰還は、ビットトレードワン社の『自称電流帰還アンプ』を設計した小野寺氏が、 自分のwebサイト で提唱しています。 ビットトレードワン社のwebサイトには小野寺氏のことを「論理思考に基づく開発能力に定評がある。」と評価しています。 電流帰還がなぜ理想的なのかを理解するには、論理思考だけでなく、自然科学にもとづく客観的事実の観察、実験とその評価も必要になります。

電流帰還と言ってもいろいろある話

先に述べたように、ビットトレードワン社の電流帰還帰還アンプを設計した小野寺氏は、電力帰還を提唱しています。 提唱と商品名が微妙に食い違っていますし、webmasterが回路図を見ても帰還しているのが電圧でも電力でも電流でもないように見えます。

ややこしいことには、他に電流帰還OPアンプという部品もあります。 OPアンプの1種ですが、入力インピーダンスがHighではなくLowになっています。 部品の使い方が違うだけで、OPアンプという部品であることには変わりません。

Webmasterが現在試しているのは、上記2つとは違います。 山本式電流帰還アンプと言って、スピーカーに流れる電流を測って入力電圧に比例させる仕組みです。

電流帰還が理想という話は説明すると長くなる

なぜ電流帰還にすべきかという理屈は、webmasterの頭の中では理路整然とまとめられています。 この内容を書籍にしようとすると、CQ出版社の書籍換算で100ページほど必要です。 しかも、全体を理解するためには、大学理工学部の教養課程で習う物理学(力学と電磁気学)をマスターしている必要があります。

以下にざっくりと『書籍にするならこんな章立てにしたい』という現状のメモを転記します。 メモレベルなのでこれだけを読んで理解するためには、物理学をマスターする他に『1を聞いて10を知る』くらいの洞察力も必要になります。 理解できなかった人達が「あそこに書かれていることは嘘だ」とか騒ぎそうな悪い予感にエネルギーが120%充填されていますけど、電影クロスゲージ明度8で書いてみます。

§1 理論の世界のルール
§1.1 西洋近代哲学から自然科学が分岐し、自然科学から工学が分岐した
§1.2 自然科学は客観しか扱わないし扱えない
2重盲検査で主観を統計化できると思ってはいけない
§1.3 物理学で何でも解けると思ってはいけない
多体問題、非線形微分方程式など 物理量=f(t)の形で解けない分野はいくらでもある
プランク定数が有効なミクロの世界では、全てを厳密に測定することは不可能
放射性物質の中で次に核分裂する原子核はどれでいつなのか予測不可能
§1.4 過渡応答と定常状態を区別しよう
冬にストーブをつけて、部屋の温度が上がるのは過渡応答で、一定温度に保つために熱を補充するのは定常状態
§1.5 工学は、物理学の法則を扱いやすく変形した数式を用いる
§1.5.1 変形した数式が通用しない場面がある
扱いやすく変形するときに制限をつけているので、対応できない領域がある
インピーダンスは定常状態専用で、過渡応答を一部しか表現できない
そんなときでも、自然科学の法則まで戻れば解決策が見つかることがある
§2 スピーカー駆動の理論
§2.1 スピーカー駆動の仕組みを物理学のルールで考えてみよう
大きく4段階にわけられそうだ
1. スピーカーシステムより手前のエレクトロニクスの話
2. スピーカーユニットで、電気エネルギーが運動エネルギーに変わる話
3. スピーカーコーンの運動エネルギーが空気振動に変わる話
4. 空気振動を制御する話
§2.2 第2段階を考え方の出発点としよう
§2.2.1 電気エネルギーが運動エネルギーに変わるのは『フレミング左手の法則』ではない
電流の方向と永久磁石の磁界を考えると、フレミング左手の法則ではコイルの半径を広げたり狭めたりする方向に力が働く
フレミング右手の法則による逆起電力が小さいのも、同様の理由
逆起電力がゼロではない理由は、永久磁石の作る磁界がコイルと完全に平行にはならないから
§2.2.2 電気エネルギーが運動エネルギーに変わる仕組みは、電磁石と永久磁石が磁力で引き合うから
電流がコイルの中に磁界を作り、その磁界が永久磁石の磁界と作用(S極とN極が引きあったり、同じ極が反発する仕組み)するから
§2.2.3 電磁石と永久磁石の間の力(スピーカーコーンを駆動する力のもとになる)は、コイルに流れる電流に比例する
電磁石が作る磁界(磁束密度)は電流に比例し、その磁界の強さが永久磁石と作用する力の強さに比例する
§2.3 第1段階のエレクトロニクスを考えると、電圧帰還アンプでは目的を達成できない
§2.3.1 電圧帰還を精密にするほど、HiFiターゲットから離れていた
§2.3.2 昔の無帰還アンプでも、入力電圧に比例した電流を出力する方式ならば電圧帰還アンプよりいい音が聴けたはず
§2.3.3 電流帰還が本来のあるべき姿だった
電流帰還は設計も評価もが難しかった
§2.3.4 小野寺氏は電力帰還で考えるべきと主張している
電力(信号電圧の2乗)に比例するエネルギーが必要だとすると、D級アンプのPWMでパルス幅変調が信号電圧に比例しているのはなぜ?
PWMのパルス幅も信号電圧の2乗に比例させないと理論が破綻する
§2.3.5 スピーカーからの音声出力が電力に比例しないのであれば、今のオーディオdBがlogの20倍になっているのはおかしい
騒音計の測定単位[ホン]もdBだけど、オーディオのdBと辻褄合わない。
オーディオdBもlogの10倍にすればより自然
§2.3.6 スピーカー電流と音声出力が比例するのであれば、デジタルスピーカーはD-noteよりも簡単に作ることができる
±0.1Aの電流源、±0.2A、±0.4A、±0.8A...と出力を倍づつ増やした電流源を並列に接続してスイッチングすれば、マルチビットでスピーカーをデジタル駆動できる。

2018年7月27日訂正のため追記

スピーカーユニットの磁気回路には、いろいろあることを知りました。 フレミング左手の法則の利用しているものも、利用していないものもあります。 §2.2.1は、修正、追記が必要になりますね。

2018年9月13日追記

§2.3.6 D-noteの改良方式は、2017年9月22日に成立した特許 登録番号6210374に抵触しそうです。

トラ技2002年10月号の記事

トラ技の編集長に、「トラ技2002年10月号で電流帰還アンプを取り扱っているよ」と教えていただきコピーももらいました。 記事中の電力増幅素子の使い方は、参考になりました。 しかし、記事の導入部分とまとめ部分で電流帰還アンプについて説明している内容に誤解があるような気がします。 特にエレクトロニクスの世界だけから電流帰還アンプについて考察するとハマる落とし穴にこの筆者さんもハマっているような気がするので、解説してみます。

スピーカーに供給する電力は、エレクトロニクスだけでは説明できない

P.213右の段で式(4)では、電圧、インピーダンス、電流の関係について、v0 = i0 Z と表現しています。 スピーカーは空気中に音のエネルギーを放出しているので、その分を追加表現しなければなりません。 モーターのように回路外に仕事をする部品をインピーダンスで表現するのは、不適切です。

スピーカー特性の電圧-電流特性

P.214の図2は、スピーカー特性を説明する図としてよく見かけます。 縦軸にインピーダンス、横軸に信号周波数をとって、「インピーダンスが周波数で変化する」と説明しています。 この説明には2つの落とし穴があるように思います。

落とし穴1 V-I特性は電圧帰還アンプと電流帰還アンプで変化するのでは?
このグラフではスピーカーユニットのメカニカルな共振周波数付近で、インピーダンスがピークを作ります。 電圧帰還アンプで電圧-電流特性を測定すると、共振周波数付近ではメカニカルロスが少ないため、電圧の割に電流が流れず見かけのインピーダンスが高くなります。 電流帰還アンプで測定したことはありませんが想像してみると、共振周波数付近でも電流に対する電圧は変動せず、グラフはフラットのままで空気中に出力される音圧が上がると思われます。 そもそもメカニカルな応答をインピーダンスで表現しようとすると、電圧帰還と電流帰還でグラフの形が変わってしまうのではないでしょうか。
落とし穴2 そもそもスピーカーの電圧-電流特性をインピーダンスで表現することに意味はあるの?
そもそも論で言えば、インピーダンスとはL,C,Rの受動部品での電圧降下を表現する時に、周波数によらず Z = Ar + j Ai
Z = Ar + j ω Ai{Ar,Aiは定数、jは虚数単位}と表現するためのものです。 図2のようにAr,Ai(あるいはZの絶対値)が周波数で変化してしまうと、複素数表現を持ち込むことで2つの定数を使って表現できていたメリットがなくなってしまいます。 早い話が、図2のような特性を取り扱うのであれば、インピーダンスの考え方を捨ててトランジスタのように別のパラメーター表現を考えなければなりません。
図2には誘導性リアクタンスなる用語が出てきますが、これも上記インピーダンスの考え方を用いるのであれば、「現実のコイルはL成分とR成分を持つ」と表現したほうが楽です。 誘導性リアクタンスだけならば、L成分とR成分に分割することでインピーダンスの手法で計算できます。

特性数値の測定方法について

P.224では、歪率について書いています。 現行オーディオで定義されている歪率は、出力電圧についてのものであり、電圧帰還アンプを暗黙の測定対象と限定しています。 記事に書かれている歪率が、どこで(スピーカー端子間なのか電流測定抵抗の両端なのか)測定されているのか明記されていません。 もしもスピーカー端子間で測定した数値であれば、あるべき数値からずれた歪とされている数値が、実は電流帰還で補正された数値かもしれません。 歪率が小さいことが、電流帰還の正当性を説明する根拠にはならないのです。

f特も同様です。 f特の測定にスピーカー端子間の電圧を用いてしまうと、電流帰還による補正を誤差扱いしてしまう恐れがあります。

メカニカルな共振の話

メカニカルな共振も、突き詰めて考えるといろいろ複雑な現象を引き起こすはずです。 例えば、共振周波数f0=50Hzのユニットに、f0に近い信号周波数(48Hzとか51Hzとか)を加えると、メカニカルな効果でコーン紙の振動が共振周波数に強制的に変わってしまう恐れがあります。

トラ技記事感想のまとめ

以上のような指摘を、丁寧に順番に本にして説明して行ったら、100ページ位すぐ終わってしまいます。

掲載日

2018年1月27日 初出

2018年9月13日 追記


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