Webmasterが20世紀から参考にしてきたWEBサイトの一つに『今日の必ずトクする一言』があります。 このサイトは技術的(それ以外も)のネタが満載で、CQ出版社から書籍としてサイトの内容が出版されています。 ネタの一つに『山本式電流帰還アンプ』があって、これにちょっと改良を加えてみました。
『今日の必ずトクする一言』では、オーディオ界を「結晶化している」と表現しています。 オーディオ界ではビジネス、評論、広告手法、雑誌の内容など、いろんなところで行き詰まっているのは認めますが、技術はまだまだ行けると思います。 そこで、今回の改良です。
図1は、従来の電圧負帰還アンプをブロックで示してみました。 ピンクの箱は、無帰還、固定増幅率のアンプです。 出力電圧を、スピーカーとパラに入れた抵抗で分圧して、入力電圧と等しくなるようにOPアンプで比較し、出力を調節しています。
多くの人が過去に指摘しましたが、NFBアンプ全体のゲインが固定であるため、フィードバックループに入る前に入力信号をボリュームで分圧しています。 ピンクの部分の増幅率にもよりますが、ボリューム直後の電圧がmVオーダーになるため、ノイズに弱くなります。
プリメインアンプならば、ボリュームより後ろが同じ筐体に入っています。 プリアンプとメインアンプに分かれていると、mVオーダーの信号がRCAコネクタからケーブルを通ってRCAコネクタに入ることになり、ノイズ対策が大変です。 コネクタやケーブルの材質、コネクタメッキの種類などにこだわる人が出てくるのもわかります。
図2は、山本式電流帰還アンプをwebmasterの理解するブロックで示してみました。 スピーカーとシリーズに入っている抵抗の電圧降下で出力電流を測定し、入力電圧と比較します。
スピーカー出力のマイナス端子がGNDにも共通電圧にもならないため、このままでは3線式ヘッドフォンが駆動できませんし、スピーカー端子からマトリックス配線するようなトリッキーな使い方もできません。
NFBアンプ全体のゲインが固定であるのは図1と同じなので、同じようにノイズに弱くなります。 この回路で汎用のアンプを作ろうとすると、インピーダンスの異なるスピーカーユニットにつなぎ替えるたびにフィードバック電流を測定する抵抗の値を調節してようやくピンクのブロックの増幅率を最大限に活かすことができます。
大学の理工学部で習う電磁気学の知識があれば、電流帰還アンプの方が音が良い理由は理論で説明できます。 電圧帰還駆動で何が起きているか、webmasterは20年ぶりに線形微分方程式を解いて確認しました。 Maxwellの方程式まで戻らなくても、V=L di/dt位の方程式を並べて計算できます。 『エレクトロニクスは、オームの法則を複素数に拡張したインピーダンスの概念で全部解ける』とか『面倒な計算はCADに任せればいい』とか言っている人には、絶対に解けない範囲です。
『今日の必ずトクする一言』のwebmaster山本さんは、従来の安物製品を改造してHiFi化することが主目標だったようですが、電流帰還専用設計のオーディオシステムがあっても良いと思います。 また山本さんもご自身で指摘している通り、スピーカーユニットを外してしまうとフィードバック電圧が0Vとなりピンクの増幅回路に過負荷がかかります。
図3は、電流帰還アンプのボリュームメカニズムを変えてみたものです。
まずR1を説明します。 R1の部分を断線する(抵抗値∞と表現する人もいる)と、入力インピーダンスはOPアンプをアンプの入力インピーダンスと等しくなり、非常に高い値になります。 入力電流が極端に小さくなり、音源側の送り出し回路構成によってはノイズが増えます。 オーディオ業界の古からの習わしによれば、R1=75Ωとすると良いようです。
次に、電流帰還のためのVR、R2、R3を解説します。 もしも、電流帰還アンプのための専用のVRを設計できればR2、R3は要らなくなるかもしれません。 パーツショップで手に入る従来部品を使うために、R2、R3を追加します。
VRの必要性は、理解して頂けるでしょうか。 入力電圧をOPアンプに直結して、それと比較する出力電流に比例する電圧値を可変にしています。 こうすると、入力のPeak to Peak 2V電圧をボリュームで分圧しないで直接OPアンプに入れても、ボリュームコントロールができます。 OPアンプの出力部分は、電圧が下がるかもしれません。 ピンクの増幅回路のゲインやもとめられる出力などで、この電圧が決まります。 増幅回路のゲインを最適化しておけば、OPアンプの出力電圧を高く保ってS/N比を稼ぐことができます。 VRからフィードバックする電圧が、VRの上端の電圧になるとき最小ボリュームで、下端のとき最大ボリュームです。 ボリュームはBカーブでよいでしょう。
VRの下端のとき、最大ボリュームと書きました。 最大ボリュームでR2をショートさせた時(抵抗値0Ωと表現する人もいる)には、フィードバック電圧が常に0Vとなり増幅率∞相当になります。 その結果ピンクの増幅回路が飽和して、±どちらかの最大振幅が出てしまいます。 これでは実用にならないので、R2を入れて最大ボリュームでもゲインが有限になるようにします。
原理的には、R3がなくても動作します。 ただし一般のスピーカーユニットのインピーダンスが4Ω〜8Ωであるのに対し、電流帰還として有効に働かせるための抵抗値はVR+R2が1Ω未満となり、適切な部品が手に入りません。 そこでR3をパラに入れて全体の抵抗値を下げます。
秋月電子通商のキット AKI.HPA-7404 を未組立でストックしていたのを思い出し、原理試作に使ってみました。
昨今のオーディオマニアの価値観では、『電源回路がプア』とか『使用している部品がプア』とか感じると思いますが、わざとそうしています。 Webmasterの価値観の一つ『適切なNFBは七難隠す』を確認するためです。
音が出ました。 安定動作のためには、出力のカップリングコンデンサに2.5V充電されている必要があります。 電流帰還がコンデンサの充電を邪魔するので、電源投入後コンデンサに充電している数秒間ノイズが出ます。 NFB回路の抵抗値をいろいろ変えて試しているところです。 NFB回路の合成抵抗値が高くなると、アンプに要求される出力が電圧供給能力±2.5Vを超えてしまい、ノイズが出ます。
時々ノイズが乗るものの、概ね良好なHiFiです。 キットを説明書通りに組み立てたことがないので、電圧帰還との比較はできません。 手持ちの他のアンプと比較しても、聴き劣りしません。 5段階評価の5を付けられます。 時々出るノイズの原因は、先に書いた電圧供給能力上限の他に、電流供給能力上限や、カップリングコンデンサによるものが考えられます。 次に電流帰還ヘッドフォンアンプを作るときは、カップリングコンデンサのいらない正負電源の回路で試してみます。
最初に、74HCU04での増幅率を0dBにした回路図を書きましたが、増幅率0dBではまずいことに気づきました。 フィードバック電圧にヘッドフォン駆動電圧を足したものがアンプ出力なので、増幅率0dBではフィードバックにアンプ出力が追いつくまで時間がかかります。 さらに、仮想グラウンドを+2.5Vにするため、フィードバックのOPアンプ出力の後振幅が1/2になっています。 74HCU04部分の増幅率を、キットの通り+10dBとしました。
うーん。74HCU04の増幅率を0dBより上げると、OPA2134出力にDCオフセットを与える抵抗も変更しないと増幅結果が電源電圧を超えてしまいますね。 今、考えています。
安定動作するようになりました。 回路図の追加の方を差し替えました。
iPodの再生ボリュームを半分位にしてVRを調節すると、4線式改造したATH-AD900Xがいい音で鳴ります。 フォルテッシモで歪むときは、入力+DCオフセットが0V以下になっているか、+12dBしたプラス入力が5Vを超えていると思われます。 まずiPodのボリュームを絞ってみてください。
一旦、試作品の評価を終了します。 結論を先に書くと、NFB方式の優劣を語れるほど評価できましたが、この回路は普段聴きのアンプとしては使えません。
連続試聴中の左右チャネルに別々のタイミングでノイズが入ります。 ノイズの音は『ジョリジョリ』『ジッ』『ボツッ』などです。 再生音量が大きいほど、ノイズは短時間(1秒未満)で、オーケストラのピアニッシモでは1秒ほど連続します。 電源投入後、最初に音が出るときも同様です。 Webmasterの想像になりますが、カップリングコンデンサのチャージが0Vもしくは電源電圧に飽和して、再度中間電圧に戻るときにノイズが発生しているのでしょう。
電源回路の変更による74HCU04アンプの改良と、3線式に応用できる電流帰還方式を思いつきました。 そのうち実装したらここで公開します。
ボリュームを出力側に設ける話と、3線式ヘッドフォンアンプの話が混在していたので、3線式ヘッドフォンアンプの話を 別ページ に移動しました。
2017年10月8日 初出
2018年2月13日 構成変更