Webmasterは、毎年音友ムック誌に付録するスピーカーを作って遊んでいます。 2018年のマークオーディオ製OM-MF5は試されたでしょうか。 電圧駆動アンプにつないだOM-MF5を他のユニット(例えばFostex のFE103En)と比較して、「高音の伸びが良い」という印象を持ちましたか?
別の印象を持った人は、ここでさようなら。 電圧駆動アンプで「OM-MF5は高音の伸びが良い」という感想を持った理由を、電流駆動の数式で説明します。
ムックの9ページ「Impedance vs Freq」のグラフから、OM-MF5のインピーダンスを読み取ります。
メカニカルな共振を無視すれば、低域のインピーダンス絶対値は4Ωくらいです。 30kHzで8Ωくらいです。 この二つから大雑把に計算すると、R=4[Ω] L=42.1[μH]です。 スピーカーの電流駆動理論 からFE103Enの数値をコピーすると R=8[Ω] L=240[μH]です。
一定振幅(1V)のsinカーブで周波数を変化させた入力電圧のもとで、スピーカーに流れる電流の最大振幅理論値をプロットしたのが、図1です。 インピーダンス絶対値の逆数と考えても同じです。 青のラインがFE103Enで、赤のラインがOM-MF5です。 比較のために、最大振幅を半分にしたOM-MF5を黄色のラインで記述しました。
高域での電流の落ち具合は、FE103Enが大きくてOM-MF5が小さくなっています。 電流駆動理論では、このグラフ形がスピーカーからの音圧に比例します。 電圧駆動アンプでこの二つを駆動すると、OM-MF5の方が高域での電流の減り方が少なく、高域音圧の落ちも少ないのです。
図1のグラフのカーブの違いがどこから来るかと言うと、スピーカーユニットのレジスタンス値とインダクタンス値の比によります。 OM-MF5のようにR/Lが大きいと高域の落ち込みが少なく、FE103EnのようにR/Lが小さいと高域が落ち込みます。
スピーカーの電流駆動理論 の図3をもう一度確認してください。 OM-MF5とFE103Enのレジスタンス値、インダクタンス値を代入すると、納得してもらえるでしょう。 第3項、第4項の分母は、R/Lが大きいとRが支配的になります。 第3項より第4項の値が大きくなる周波数も、R/Lが大きいと高い方に移動します。
「電圧駆動が正しい」と主張する人は、インピーダンス・周波数のグラフを見て、「高域になるほどインピーダンスの絶対値が大きくなるから電流駆動では電圧が増えて高域が強調される」と言います。
もしこれが本当ならば、OM-MF5とFE103Enのそれぞれを電流駆動した場合、インピーダンスの増え方が著しいFE103Enの方がより高域強調されるはずです。 実際に電流駆動してみると、二つとも高域はほぼ同じに聴こえます。 お試しあれ。
R/Lが大きいユニットを使用すると、高域の落ち込みが改善されると書きました。 実は、ユニットを変更しないでR/Lを大きくする方法があります。 スピーカーユニットに直列に抵抗を入れてしまうのです。
直列に入れた抵抗ではエネルギーが熱に変わるので、放熱に注意しなければなりません。 アンプの出力も、有効に使えません。 それでも、高域の落ち込みを改善する効果はあります。
ただし、Rの絶対値が大きくなってしまうので、インダクタンスから返るはずのエネルギーが抵抗の電圧降下でうまく返れなくなります。 そこまで考えて設計したアンプは殆ど無いので、気にしても仕方ありませんが。
2019年3月19日 初出
2019年4月1日 追記