オーディオ書籍の書評

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説明

Webmasterが読んだオーディオ書籍のレビューです。

岡野邦彦著 実用オーディオ学

某一人オーディオメーカーその2の社長ブログとYahooのトップリンクの2箇所で絶賛していたので読んでみました。

大きく6つの章に別れていて、章毎に書かれているレベルや筆者の熱の込め様が違います。 以下、章別にコメントします。

第1章 アースと電源配線の科学

1点アースを積極的に勧める記述です。 アマチュアオーディオの間でよく話題に登るところですが、この本の記述は物足りないです。

1点アースを勧める根拠として、アース線がループを作るとノイズが乗りやすいことを上げています。 確かに電磁波が来るとループ回路がアンテナになって余計な電圧が発生することはあります。 ただし、電磁波由来の微小電圧が問題になるのは、信号電圧も極端に落ちているところです。 具体的には、アナログレコードプレーヤー出力とフォノイコライザーの間とか、プリアンプでボリュームを絞った後のLINE出力と、NFBの帰還信号でしょう。 その他の場所で1点アースに極端にこだわる必要をwebmasterは感じません。 ここのところは、信号レベルとノイズレベルを定量的に評価してほしいです。

複数の筐体間でグラウンドを共有する話と、一つの筐体内で回路のグラウンドを接続する話も、1点アースが必要な理由を分けて記述してほしいですね。 金属でシールドされた筐体内に飛ぶ電磁波は、筐体内から来たもののはずです。

蛍光灯を点灯するとき再生音に乗るノイズも、電磁波由来なのか電源回路経由なのかきちんと検証していません。 イメージ先行で定性的な議論を行うのは、オーディオ界ではよく行われますが、科学的な態度とは言いにくいです。

第2章 CDとハイレゾの科学

CD再生で音が悪くなる理由としてよく言われるエラーレートなどの都市伝説を、定性的に検証しています。

また、「現行システムよりももっとHiFiにCD再生できるはず」という主張もしています。 この主張はWebmasterも PCMの限界第13回1bit研究会での発表 で同じ話をしています。 参考文献にWebmasterの資料が載っていないところを見ると、筆者も独自に全く同じ結論に達したようです。

第3章 SACDの科学と高音質の秘密

本書で一番ダメな章です。 P.58のコラムを読むと、筆者は⊿変調とΔΣ変調を逆に解釈していることがわかります。 詳細は、webmasterが記述した『エレキ工房No.5』の第2章、第3章と比較してください。

P.61のコラムでは「DSDはマスタリングできない」と書いています。 とんでもありません。 1bitΔΣ信号は、ボリューム調節したり、ミキシングすることも比較的容易に出来ます。 現にwebmasterの自作したDAPでは、ヘッドフォン出力の1bitΔΣをリアルタイムにボリューム調節しています。

1bitΔΣがPCMと違うのはサンプリング周波数が高いところです。 FIRでフィルタリングしようとすると、フィルタタップ数を増やす必要がある上にもともと数多いサンプルを処理しなければならないので時間がかかることです。

第4章 室内音響の科学

本書で一番力の入った章です。 定在波の話から始まって、リスニングルームをどう調節するかについて具体的な測定結果を交えて論じています。 Webmasterは、この章には文句をつけません。

第5章 接続ケーブルの科学

第1章と同様に、オーディオ界の定説を述べ、定性的な比較をし、筆者の個人的な感想を書いています。 定量的な話は出てきません。

第6章 あると役立つ測定機材

筆者が活用しているであろう機材が紹介されています。 測定目的別におすすめの測定機器とその根拠が書かれています。 測定分野の選択や、一つの分野の測定機器について、網羅的ではなく代表を紹介して終わっているところが残念ですが、間違いや誤誘導は書かれていません。

Webmasterのまとめ

第4章だけを読むためにも、購入する価値アリです。 その他の章は、おまけと考えたほうがよいかも。 特に第3章を信じてはいけません。

河合一著 デジタル・オーディオの基本と応用

DACの基礎を学ぶために買いました。 内容、レベル、記述に満点をつけたいよく出来た本です。 メーカーでデジタルオーディオを設計、実装する人や、DACを自作する人にはぜひ目を通してほしい本です。

出版時2011年当時のDACにまつわるあれこれを、網羅的に記述してあります。

デジタルオーディオの基礎理論も説明していますし、応用としてのD/A、A/D変換、DACの実装、過去のデジタルオーディオ技術トピックまで解説してほしいと思う技術はDSD変調を除いて全て書いてありました。

理論からスタートし、DAC LSIのブロックも、回路実装時の注意点も、現状での実装上の限界も全て書いてあります。 しかも、現象だけではなく、理屈の説明もエンジニアにわかるレベルで書いてあります。

デジタルオーディオに携わるエンジニアで、この本を読まず書かれているレベルに達していない人は、職務怠慢と言ってもいいと思います。

正直言って、webmasterもつまみ読みしているので、まだ半分くらいしか読んでいませんが、大変参考になりました。

Richard Schreier & Gabor C. Temes著 ΔΣ型アナログ/デジタル変換器入門

ΔΣ変調を勉強するために買いました。 エレキ工房No.5の参考文献です。

現在ΔΣ変調を勉強できる教科書は、この本くらいしか無いと思います。

白状すると、webmasterはまだ1割くらいしか理解していません。 読みにくい点もあります。 理論的な結論は明記してあるのですが、その結論に至った過程を省略されているので、自分で考えなければなりません。 周囲に相談できる人のいる理工学部大学生以外は、読むのに苦労するでしょう。

本書冒頭部分のΔΣ変調基礎の説明を、webmasterなりに解釈したものがエレキ工房No.5の第2章だと考えてもらってかまいません。

実は、読んでも理解できない章とは別に、書かれていることに納得がいかない章もあります。 本書の記述と、webmasterの理論、経験が矛盾しているのです。 いつか、このwebにその話を書く日も来るでしょう。

CQ出版社 エレキ工房No.5

Webmasterも参加した書籍です。 第2章には、ΔΣの理論を自分なりに解説しました。 自分で読み返してみると、読みにくいですね。 特に、説明の図と文章が別ページに分かれているのが問題です。 あと、原稿に書いたことの半分近くが端折られているので、説明にギャップを感じるかも知れません。 もともと100ページを想定した原稿を30ページにされてしまったので、仕方ありませんね。

書籍で取り上げたUSB接続のΔΣ録再機キットは、もう売り切れました。 実装部分の解説は、自分でUSB DACを作りたい人には役立つかも知れませんが、お手軽キットを望む人には無用の長物です。 「USB DACを作る時にはこんな苦労があるよ」という業界あるあるネタとして読んでみてください。

今だったら、ラズベリーパイのI2SインターフェースとwebmasterのPDM駆動を組み合わせてもっと過激な録再機を一人で設計することも可能です。 この企画をCQ出版社を含む多方面に持ち込んだのですが、実現していません。 そのうち一人でキット化するかも。

掲載日

2019年5月12日 初出

2019年5月14日 追記


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