きっかけ
2017年5月16日に『トランジスタ技術』の編集長からメールが届きました
一部引用します。
「読者から簡単なお仕事の相談がありました.
それほどお金にはならないかもしれませんが
・12Vの小さなDCモータ1個の回転を制御基板を作りたい
・基板式のタッチ・スライダでやりたい
↓の付属基板でも十分OK
http://shop.cqpub.co.jp/detail/996/
PICで十分なレベル」
さっそく連絡をとって打ち合わせしました。
この人物が作りたがったもの
一言で言うと、医療機器のドレインです。
ドレインとは?
ドレインとは、患者の体内にたまる不要な血液やリンパ液を優しく体外へ吸い出す機械です。
大きな外科手術の後では、体内で小さな出血が続いたり、内臓のバランスを戻すためにリンパ液がたまることがあります。
放っておいてもゆっくり再吸収されるケースが多いのですが、早く回復させる目的や体力の落ちた患者さんのために、ドレインで吸い出すこともあります。
吸い出すために細いホースを体内に残し、ドレインが不要になった時に再手術で取り除きます。
この人物を詐欺師と疑う根拠
お金に関して調子の良い夢物語を話すのに、試作費用をケチりすぎて作業が進んでいません。
- 打ち合わせ費用をケチりすぎ
- 毎週1回のペースで呼び出すのに前回の打ち合わせから進捗なかったり、打ち合わせスペースがパン屋2階のイートインスペースだったりします。
交通費もコーヒー代もwebmasterの自腹です。
- 試作費用を渋るのに夢を語る
- 言われた通り必要な開発機材、材料、デモンストレーションの準備を見積もったのに、「金額が高い」とだけ文句を言われました。
それでいて、「試作が完成したら、息子と二人で売り込みのためヨーロッパに2ヶ月位出張して欲しい」などとも言っています。
この人物は、いろいろと整合性の取れない説明をしています。
以下、思い出せるものを並べます。
- 画期的発明のはずがどこが画期的なのかわからない
- 「画期的発明をしたので試作したい」と言っていたのに、特許番号をたずねると突然話題を変えました。
- 某大病院の院長もべた褒め?
- 「某大病院(実名を聞いたけどここでは伏せます)の院長に見せたらべた褒めしてくれた」と自慢していたので、「私は医療界に知人がいるので、その院長に確認してみます」と返したら、「いや忙しい人だから会ってくれないだろう」とか主張が後退しました。
- 息子と歳が離れすぎ
- 最初の打ち合わせで会った本人と息子は、外見がそれぞれ70代、20代でした。
息子は打ち合わせでは全く口をきいていませんし、会ったのは1回だけです。
- 名刺の住所に住んでいない
- 「新事業を立ち上げる」と言っているのに、印刷した名刺の代わりに手書きのメモを渡されました。
書かれている住所をこっそり訪ねてみると、中華料理屋でした。
- 困ってエンジニアを探しているのにすぐ交代させる
- Webmasterがプロジェクトに参加した時、すでに設計途中でした。
ブロック図と部品リストが存在したので(完成度はイマイチだったけど大きな矛盾はなかった)、「ここまで設計した人物に、続きを作業させないのはなぜか?」ときいてみました。
「設計に致命的なミスがあったので、クビにした」そうですが、『致命的なミス』とは何か説明を求めてもはぐらかされました。
Webmasterが設計を終わらせて見積書を送付した後、この人物からの連絡が途絶えました。
後から『トランジスタ技術』の編集長が教えてくれたのですが、「紹介してくれた人物(webmasterのこと)が使えないから別人を紹介しろ!」とCQ出版社にねじ込んで、別のエンジニア相手に同じことを繰り返したそうです。
- 内部に収納する電子機器が決まる前に外形を設計済み
- ドレインのメイン機能になるポンプや制御用のマイコンが決まる前に、外側の金属ケースの設計が終わっていて試作品がありました。
「ポンプの放熱は大丈夫ですか?」「部品が入りきらなかったらどうしますか?」「病室で使用するのだから、ポンプの出す動作音を減衰させなくて良いのですか?」という質問には、全て曖昧な答えが帰ってきました。
まあ世界的な大メーカーでも、同様に本末転倒な設計手順を踏む時代なので、日本では常識的な開発手順なのでしょう。
納品後のトラブルが、運命づけられているわけですね。
- 画期的な発明が実は無効
- 本人が『画期的な発明』と主張していた内容は、『今までドレインが吸い出した液体はガラス瓶に貯めていたが、軽くて柔らかいビニール袋に貯めるようにした点』だそうです。
ドレインが液体を吸い出すメカニズムは、ポンプが直接液体を吸い出すのではなく、ドレインの容器内の空気を吸い出すことで負圧が発生し体内からドレインに液体が移動します。
「容器が変形するビニール袋になったら、ポンプが作動してもビニール袋がぺしゃんこにつぶれるだけで液体を吸い出せないのでは?」と質問したら、あわてていました。
- 医療現場での使用を想定していない設計
- 『ダメな例』として、既存のドレイン機器のカタログを見せてもらいました。
『ダメな例』の方が、医療現場で使用するための配慮が行き届いているように見えたので以下の指摘をしました。
- 外側がプラスチック製で角のない丸い形なので、忙しい看護師さんがぶつかってもダメージが少ない
- 内蔵バッテリーで動作するので、短時間の停電にも耐えられるし、ケーブルを引っ掛ける心配もない。
- 吸いだした液体が容器いっぱいに溜まった警告も出る。
- 操作ボタンと表示LEDの配置が絶妙で、誤操作の恐れが少ない
大企業にいると、『ひどい話だ』という感想を持つかもしれませんが、フリーランスで仕事をしていると問い合わせの半分はこんなケースです。
警視庁には報告済み
この人物については、経緯を地元の派出所に届けてあります。
いつものように話を聞いてもらっただけで終わりましたが、webmasterは最低限の義務を果たしているので、被害者が出ても警視庁の落ち度です。