コラム 撮影機材とハイテク
撮影機材の技術の進歩は、とどまるところを知りません。 私が一眼レフカメラを持つようになって20年経ちますが、 その間にも プログラムAE、オートフォーカス、ストロボのFP発光、 分割測光、手ブレ防止レンズ、多点測距、視線入力と様々な技術が出てきています。 ここでは、そのようなハイテクについて、思うところを書いてみます。
両極端の人
ハイテクに対して、全面否定の人と、全面肯定の人がいます。
全面否定の人は、たとえばこのようなものの言い方をします。 「AF なんて必要ない。手で合わせた方が早い。」 「AE なんていらない。適正露出は手で合わせるものだ。」 「ワインダーなんて邪道だ。フィルムは手で巻き上げるものだ。」 「カメラ付属のストロボなんて邪魔なだけだ。」 こういう発言は、たいてい前提条件の「私にとっては、」が抜けているのです。 つまり、「私にとっては、AFなんて必要ない。私にとっては、手で合わせた方が早い。」というわけです。 野鳥の写真を撮ってみればわかりますが、 超望遠レンズで AF よりも早く正確にピントを合わせるなんて不可能です。 可能だと言う人がいたら、ぜひこの目で見てみたい。 確かに広角レンズだったら、 被写界深度の深さを利用して大雑把にピントを合わせて済ますこともできます。 でも、全ての人が広角レンズだけで撮影を済ませているわけではないのです。 この手の人が迷惑なのは、持論を主張するだけではなくて、 周囲の人に押し付けることがあるからです。 うっかり信じてしまって言うことを聞くと、とんでもない目にあいます。
また、逆に新技術、新製品を盲目的に信奉する人もいます。こちらも困ったものです。
現役エンジニアの私に言わせれば、 「技術なんて役に立つこともあれば立たないこともある。」 「新しいからと言って優れているとは限らないが、劣っているとも限らない。」 「万能の技術など存在しないから、使い道によって技術を選択すべきである。」 となるのですが、同意する人は少ないです。
それでは、 私にとって野鳥を撮影するための理想的な環境とはどのようなものでしょうか。 以下に書いてみましょう。
野鳥を撮影するのに理想的な銀塩機材
銀塩カメラで野鳥を撮影するときに、私が現在理想的だと思うものです。
ボディー
キヤノン EOS 3
レンズ
EF 300mm IS F4、x2 テレコンバーター
フィルム
KODAK コダクローム 200
叶内拓哉さんの本と違うところは、AF を積極的に利用するところと、 暗くてもよいから軽いレンズで振り回せるところです。 ボディーは F8 でもオートフォーカスが可能な点で選びました。 レンズは手ブレ防止レンズの中で、軽くてそこそこの焦点距離のものです。 ニコンを選ばない理由は、F8 対応のオートフォーカスセンサーがないことと、 手ブレ防止レンズが揃っていないからです。
野鳥を撮影するのに理想的なディジタル機材
ディジタルカメラで野鳥を撮影するときに、私が現在理想的だと思うものです。
ボディー
キヤノン EOS D30
レンズ
EF 300mm IS F4、x1.4 テレコンバーター
メモリ
IBM Micro Drive
野鳥の撮影では超望遠レンズが必要なので、 レンズ交換のできる一眼レフタイプになります。 プロ用の100万円を超えるディジタル一眼レフはさわったことがないので、 Nikon D1x、FUJI S1、Canon D30,1D の中から選択しました。 EOS を選んだ理由は手ブレ防止レンズが充実しているからです。 1D ではなくて D30 なのは、値段と軽さが判断基準です。 ディジタルカメラでは F8 対応の AF センサーはまだないようです。 AF センサーの限界からテレコンバーターは 1.4倍になりましたが、 画像センサの面積が小さいので、実質的には 670mm 相当の画角になると思います。 月給が100万円位ないと買えないと去年書きましたが、 D30 を何とか入手しました。 次は EF 300mm F4 L かな。
手ブレ防止レンズは野鳥撮影に有効か?
ニコンの web を見ていたところ、 手ブレ防止機構の応答速度が 1/1000 秒だと書いてありました。 キヤノンの web にも最近(2000年12月現在)応答速度が書かれて 2/1000 秒とあります。 つまり、 ブレが発生してから検出して対処するまでに 1/1000 〜 2/1000 秒かかるわけです。 もしも 1/1000 秒とか 1/500 秒のシャッターを切った場合、 初期の振動を検知して手ブレ防止機構が働き出した時点では 露出が終わってしまうわけで、 高速シャッターには手ブレ防止機構が役立たないと言うことになるわけです。 野鳥撮影では、高速シャッターで手ブレ防止を期待するので、 これは手ブレ防止が野鳥の撮影には向かないともとれます。 ぜひ、野鳥撮影のために高速応答の手ブレ防止レンズを設計してほしいです。
AF カメラは電気食い
いまやディジタルカメラの電力消費量が問題になっているときに、 何をいまさらと言われかねないのですが、 AF カメラも MF カメラに比較すると電力を消費します。
もう10年以上も前になるのですが、 初めて AF カメラを買ったときにリチウム電池の値段に閉口したことがあります。 カメラは PENTAX の SFX で、 当時私の使用するポータブル機器はみな充電池で動作するようにしていたので、 SFX も充電池での動作を試みました。 SFX はバッテリーケースを取り替えると単3電池が使えるので、 まずは単3型NiCd電池の使用を試みました。 ところが、単3用バッテリーケースにははっきりとNiCd が使えませんと書いてあります。 実際に入れてみたら使えませんでした。 そこで、バッテリーケースから電線を引き出して、 タミヤのラジコン用電池の6Vをつないでみました。 一見動作するように見えるのですが、 実際にはオートフォーカスの駆動モーターがジージー言いつづけて なかなか合焦しません。 当時はわからなかったのですが、理由は NiCd 電池の電圧にありました。 NiCd はフル充電すると 1.4V を出します。 タミヤの電池は NiCd を5本直列にしていたのでフル充電で 7V になっていました。 そのためレンズ駆動モーターの回転が速くなってしまい、 6V でのレンズ駆動を想定していたボディーがレンズ駆動を停止させたころには レンズが行き過ぎてしまっていたのです。 行き過ぎを修正するために逆方向に駆動すると、また逆方向に行き過ぎてしまい、 オーバーランを何度も繰り返していたのでした。 それに気付いたとき、今度は定電圧駆動用3端子レギュレータLM317Tを使用して、 6Vを入れてみることにしました。 結果は成功でレンズ駆動もピッタリの位置で止まるようになりました。 ところが、何回か使っているうちに、フィルムローディングを失敗し、 36コマ分の撮影を丸々無駄にしてしまう事故が発生しました。 この事故以来、外部電源供給はあきらめたのですが、 リチウム電池でもローディング失敗しているところを見ると、 原因は外部電源ではなかったようです。 SFX も15年間使ったことですし、 ローディングに失敗するようになってからは第1線を退いて、 家族が代りに使用しています。
期待の回折レンズ
キヤノンのハイテク研究はますますヒートアップしているようです。 現在のハイテク競争では、他社が一歩も二歩も置いていかれているように感じます。 先にも述べたように、いくらハイテクをつぎ込んでも、 自分の目的に利用できなければ意味がありません。 その意味で、野鳥撮影に有効だと思えるのが、最近発売された回折レンズです。 技術の詳細はキヤノンの web やカメラ雑誌を見ていただくとして、 私が最も期待しているのは、 従来のレンズよりも小型軽量な望遠レンズが実現できるところにあります。 つまり、同じボディー、焦点距離のレンズを使っていても、 レンズが明るくなった分テレコンバーターを使ってクローズアップが可能になるとか、 同じ明るさでより軽い機材を使用できるといったメリットがあるのです。
ガラスの内部にレーザーで回折格子を作る技術も開発されたそうです。 回折レンズはまだ普通の人の手の届く価格帯ではありませんが、 技術革新でコストダウンすることを期待しています。